だるま屋ウィリー事件の心理

1999年のどうでしょう「大豊作の年」にして、「原付シリーズ第1弾」となる「72時間! 原付東日本縦断ラリー」の中で、最大の山場となり視聴率を引き上げ、「どうでしょう人気」を盤石の地位に置いたともいわれている「だるま屋ウィリー事件」。

あれは、誰の目から見ても完全な衝突事故で、本来なら地元警察に事故報告をしなければならないレベルのものだったかもしれない。ケガでもしていたら、当然ながら撮影中断で企画は中止。バリケードが破損していただけでも補償問題にもなりかねないところだが、あそこまで堂々と放送をして加害者としての証拠を提示しておいて苦情もなかったのであれば、まあ結果的に何事もなく収まったという事故だろう。

藤村Dは、事態を深刻な方向へ持っていかないように、必死になってお得意のゲラゲラ笑いで旅の最大の「ハプニング」に仕立てたが、それが天国と地獄の紙一重の状況だったということは、元バイク乗りの彼にだったら自明のことだったと思う。本当なら笑ってやり過ごせるどころの話ではないのだが、そこは天性の処世術というか、いい意味でのテレビマンの本能というか、番組を面白く持っていくための手法として、「笑い」を最大の防御にその場を切り抜けたということになるのだろう。

残念ながら日本海の事件現場ではないが、2011年新作で、「そろーり」と発信した龍神・高野スカイラインのもの

残念ながら日本海の事件現場ではないが、2011年新作で、「そろーり」と発信した龍神・高野スカイライン上のもの

バイク乗りとしては、小型でも自動二輪であのような衝突事故を引き起こしたら、まず無事ではいられない…と思うわけで、あれが原付カブで、馬力がなく、軽量で足付きがすこぶるよい状況であったことが何よりの幸運であり、大泉洋の強運でもあったのであろう。当の大泉本人にとっては、心臓バクバク、手足はガクガクとした身体的状況のなかで、心理的には何事もなかったようにクールに取り繕おうとすることで目一杯だったろうと思う。そうした状況における身体的・心理的な状況というのは、バイク乗りにとっては少なからず誰でも経験していることなので、あの極限的ともいうべき大泉のおかれた状況には大いなるシンパシーを抱くわけである。

スクーターでは経験することはないであろう、交差点での出会い頭のエンストによる立ちゴケ。右折時に倒してしまおうものなら、そのリカバリーにどれだけの絶望的状況が訪れることか。火事場の馬鹿力で起こすことができるのは本当に不思議なのであるが、早くその場から立ち去りたいという「恥ずかしさ」が大きく支配し、バイクや自分自身の損傷を気にするのは二の次という、本来クールに風を切っている自分にはあってはらなない姿を晒したくないという心理。

現場での大泉の心身の状態は、手に取るようにわかる。しかし、そんな状況で冷やかすミスターのことばに、「ギアいじったっけ、ロー入っちゃって、もうウィリーさ」という、あの名言を捻り出すあたりは、相当な心臓の持ち主であることを物語っていると同時に、天性のエンターテイナーの片鱗を表し始めたひとつの転機でもあるのではないかと思われる。そうしたこともあり、それほど盛り上がりのない翌週(最終夜)からの視聴率が跳ね上がり、次回作の「ヨーロッパリベンジ」で最高をするに至ると、後々にディレクター陣が語っているわけである。

一歩間違えば、企画中止にもなりかねなかった状況のなかで、運よく名作として産み落とされたこの「原付東日本縦断ラリー」と「だるま屋ウイリー事件」。これがなかったら、「西日本制覇」も「ベトナム縦断」も、2011年の「日本制覇」もなかっただろうと考えれば、奇跡の1本だと断言できるだろう。

 

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